「 DV・性暴力被害者を支えるための はじめてのSNS相談 」
若い世代はネットのコミュニケーション手段を駆使しているのに、DVや性暴力被害相談に当たっている世代はどちらかというとこの手段を使うのが苦手、だから苦手の世代へのエールとしてSNSを使って相談対応するためのノウハウを伝えるという発想で執筆された本です。ネットというと尻込みしてしまいがちな世代に向けて易しく丁寧に解説している良書です。
「はじめに」によると、この本を出版しようと思い立った動機は、2017年に座間市で起きた衝撃の殺人事件とのことです。この事件では実に9人もの男女が加害者のSNSにおびき寄せられて殺害されてしまいました。加害者はSNSを通じて自殺願望をほのめかす男女を見つけ、言葉巧みにアクセスしおびき寄せて、ネットのバーチャル空間ではなく現実場面で犯行に至っています。
加害者がネット空間をパトロールして被害者を見つけることができたのだから、なぜ私たち相談対応者が支援を求める声に出会うことができていないのかという発想にもなるのは当然の成り行きとも言えます。
従って、この本の読者層を「すでにDV・性暴力被害にある程度、知識・理解のある方々」を想定し、その方たちが「新たにSNSを使って始めるに当たり必要な知識、情報が得られるよう構成」しているとのことです。背景にある性暴力の全体状況や法制度などの情報はすでに理解済みのこととして省かれています。
0:SNS相談を始めるための準備
1:SNS相談は何のため?
2:SNS相談ってどういうもの?
3:SNS相談の基本スキルと注意点
4:DV・性暴力被害者の支援ツールとその活用
5:SNS相談の事例と回答
解説:DV・性暴力とは―基本認識と支援の留意点 戒能民江
全体構成は大きく7つの柱建てになっています。
相談支援の原則に変わりはないとしつつ、SNSの主たるツールであるLINEを駆使するためのノウハウを丁寧に伝えています。ハイライトは「5:SNS相談の事例と回答」です。身体的DV,経済的DVなど全部で10の被害相談類型にわけて、それぞれLINEの画面を提示し実際の応答の状況を示しながら解説を加えています。
LINEは本質的に短い言葉のやり取りからなるコミュニケーションで非言語的コミュニケーションは取れないので、おのずから限界もありますが、現在の若者の多くが使っているコミュニケーション・ツールである以上、相談対応者側も使いこなす必要性、必然性は非常に高くなっています。このようなコミュニケーションの方法そのものがドラスティックに変化している折り柄、時期にかなった出版物で、相談を受けるということの基本を振り返るためにも貴重な本です。
ただ、本書ではデジタル性暴力にも言及がありますが、デジタル性暴力を専門領域として開拓してきている者としては、この面は若干物足りないものがあります。このことはぱっぷすが主体となって開拓し、実態が分かってきたデジタル性暴力の類型、加害者の状況、ポルノハブなどグローバルに展開し性的画像を商業的に利用している業者の実態、商業的な性的動画配信に抵抗する世界の潮流、機材の開発と性能などを整理したうえで、ニーズの高い削除要請活動などを加えた支援のあり方などをまとめて出版することで補佐していきましょう。
一般社団法人 社会的包摂サポートセンター(篇
NPO法人全国女性シェルターネット(監修)
明石書店 1800円+税 2021.2.25発行
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