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メルマガvol.124 「2022年6月23日『AV出演被害防止・救済法』施行」



 6月23日に施行された「AV出演被害防止・救済法」では、AV制作に当たって性暴力被害に直結する性交の契約を無効とする条文を入れることはできませんでした。理由は、民法上の基本原則として、「契約自由の原則」があり、公序良俗に反しない契約は「有効」とされ、当事者の自由な選択の結果であるかぎり国は契約に介入するべきではないという理念があるためです。この原則を隠れ蓑にして、これまでAV業界では、性暴力・望まぬ妊娠・性感染症など、慣例的にひどい人権侵害が続いていました。


 AV撮影での性交の契約が公序良俗に反するかどうかは、判例の蓄積が必要であることでした。ご承知のとおり、性交を伴う“愛人契約”は判例の蓄積により、人の尊厳や基本的人権の観点から公序良俗に反する無効な契約とされてきたことで、民事的に多くの被害者が救済されていました。しかし、今回のAV出演被害防止・救済法では、18歳19歳取消権の穴を一刻も早く塞ぐ必要があり、性交の契約に対し無効もしくは取り消すことができる条文を盛り込むことができずに、成案を目指しました。


 法案審議過程において、「性行為の契約を合法化するものではないか?」との激しい反対論が上がりました。ぱっぷすでは、性的同意は契約書で縛ることはできず、売買の対象としてはならないという考えは決して変わっていません。


 ぱっぷすには、AVの撮影においての様々な被害の相談がたくさん寄せられています。今後は、さらなるAV被害を防ぐために性行為映像制作物の在り方について、国民運動として進めていく必要があります。


 ぱっぷすは、2022年4月1日から実行される民法改正による18歳19歳の契約権取得問題について、AV被害の側面から3年前より警鐘を鳴らし続けてきました。これまでのAV被害の対処として18歳19歳の人たちには民法により契約権がないことを盾に、その年齢の契約は無効だと業者と渡り合う唯一の武器だったからです。


 これまでAV被害に対しては有効な法整備が無かったことから、2018年~2020年(過去3年間)の平均新規被害相談者数は82人と横ばいの状態が続きました。一方で、2021年度の20歳未満のAV被害相談者数は20人(前年度の3倍、AV被害相談の20.4%)でした。当団体に寄せられた被害者数は全体の被害のごく一部であり、警察に届け出ても事件化できるのはAVプロダクション止まりで、AV制作・AV販売は野放し状態でした。


 たとえ刑事事件化しても「AV公表停止」は別問題であるため、多くの若年女性が泣き寝入りを余儀なくしていることから、多大な暗数があるものと推測しました。

 20歳未満の被害相談人数20人は少ないように見えますが、これは取消権が抑止力として機能していたのだとわかります。4月1日以降は、18歳~19歳の被害者の数が激増するものと考えられました。


 支援団体の働きかけにより、2018年から与党ではプロジェクトチームを立ち上げ、AV被害救済のための素案づくりが行われました。しかし、2020年からのコロナ禍によってロビー活動ができない・衆議院選挙に伴う国会議員の移動などとも重なり、成人年齢引き下げの1か月前の3月ギリギリになって、ぱっぷすとして最後の力を振り絞って他団体と一緒にロビー活動を進めました。3か月後に成案ができ国会で可決、法として施行される事態は極めて異例のことです。


 この異例の事態が起きた背景には、AV被害の実態について理解して下さった、法案策定に直接的に関与する与野党の国会議員の方たちの党派を超える動きや実務者などの関係者各位の動きがあったものと考えます。法案制定過程において、与党プロジェクトチームの素案を元に組み立てられました。どこで妥協しどこで妥協できなかったか、非常に複雑な力関係のバランスの元に仕上がっていった法律ですが、このプロセスの全体状況は今のところ明らかになっていません。今後、直接的、間接的に係わった人たちの評価や分析を待ちたいと思います。


 法の正式名称は非常に長くなっています。「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」


 この法律の最大の成果は、AVによって被害が存在していることを法によって正式に認めている点だと考えます。


 第1条では、「性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわかって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み」と、まず、AV被害が存在すること、および、将来に渡ってAV被害が生ずるおそれを予測しています。AVは単なるエンターテイメントでそこには「被害者はいない」と長らく、特にAV業者関係者や需要者(消費者)からの声高な主張がありました。この法律によってまず被害があることが認められました。


 ぱっぷすが10年の歳月をかけて掘り起こしてきた数百人に及ぶAV被害者の声がストレートに法第1条に反映されています。このことの重みは計り知れません。


 法律の作りは“契約”を切り口にしていることから、AV被害(≒デジタル性暴力)に関しては“契約”だけでは対応しきれない甚大なものがあります。まずは、被害の入り口部分の突破口を開くことに繋がったと指摘しておきます。


 インターネット空間を舞台に展開される21世紀的なデジタル性暴力に対応する新たな法の枠組みを構築することを迫られており、私たちはやっと入口に立ったに過ぎません。ぱっぷすの相談支援のスタッフは連日寄せられる被害相談に対応しています。

 AV出演被害防止・救済法の施行以降は、児童ポルノ・リベンジポルノの被害を受けた方からの悲痛な相談もさらに寄せられています。


 今後も、ぱっぷすの相談支援体制の充実をはかり、被害はもとより、加害を無くすために努めて参りますのでご協力をよろしくお願いいたします。みなさんと力を合わせて社会を変えていきたいと考えています。 AV法に関する他のメルマガを読む > 「AV出演被害の相談の特徴、変化、支援活動への妨害など」(AV法から1年:前編)」 「AV出演被害の相談から見える実態、影響、課題」(AV法から1年:後編)

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