刑法に性犯罪が規定されたのは明治時代。それから110年後の2017年まで改正されずにいました。この改正は性暴力・性被害にあった当事者が声をあげ、専門家が後押しをして、議員が各方面へ働きかけるなど地道な運動が実を結んだ結果とも言えます。ぱっぷすも参加している「刑法改正市民プロジェクト」では、性的動画・画像の撮影や拡散被害を無くすために、“撮影罪”という新たな法律の制定を要望しています。刑法改正市民プロジェクトに関るスタッフのAさんに、新人スタッフBが話を聞きました。
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A)ぱっぷすで相談員とロビー活動を担当しているAです。法律に規定されていない、抜け落ちてしまっている性暴力があることを多くの人に知ってもらいたいです。
B)ぱっぷすで活動していて「性的動画や画像の拡散被害がこんなに広がっているのに、なんで犯罪として認められていないの?」と思います。法律上の扱いを教えてください。
A)性犯罪に関する刑法は1907年(明治40年)に制定されて、110年後の2017年にやっと改正されました。この改正では、性暴力被害当事者や支援者の声がようやく法律に反映され、厳罰化や非親告罪に変化したなど、非常に意義深い変化がありました。しかし、「時効の撤廃や停止」「暴行脅迫要件の緩和もしくは撤廃」など、積み残した課題も多く、附帯決議には必要であれば3年後の見直しを行う事が明記されました。現在、その見直しに向けた論議が盛んになっているところです。
B)新たに論議されていることのひとつが、「撮影罪」導入ですね。
A)そうです。刑法性犯罪の2020年に見直しの議論を行うための新たな検討委員会が設置されて、性暴力被害者支援など関係者が委員として加わるという大きな前進がありました。刑法性犯罪の見直しの議論は、2021年11月に法務大臣の諮問機関である法制審議会入りとなり、2022年7月に法案の条文作成という佳境を迎えています。
B)「刑法改正市民プロジェクト」でのぱっぷすの役割について教えてもらえますか?
A)「刑法改正市民プロジェクト」は性暴力被害の実態に即した刑法性犯罪改正を求めて2017年に発足しました。ぱっぷすもその一員です。性暴力被害当事者団体や支援を行う12の団体で構成されたこのチームです。私達はこれまでの刑法の性犯罪関連の情報共有・実態把握を踏まえて、被害者視点に立った刑法の性犯罪規程の改正を目指した要望書の提出や国会議員へのロビイングを行ってきました。
B)そのプロジェクトに参加する中で、Aさんが重視することは何ですか?
A)性的姿態の撮影等について、被害を救済し、加害行為を取り締まるための新たな法律を制定する動きです。
B)どんな内容ですか?
A)2021年9月に当時の法務相であった上川陽子大臣が発表した通称『撮影罪』新設の提案は、これまで条例レベルでしか規制がなかった盗撮などのデジタル性暴力を法律で取り締まり、被害をなくす事が狙いです。ぱっぷすとしてもこの新しい動きを歓迎しています。
B)詳しく教えてください。
A)ぱっぷすは、2021年11月にデジタル性暴力被害の実態に関して法務省からヒアリングを受けました。その際には、法律が無いせいで泣き寝入りを余儀なくされてきた被害者の方々の現状や、被害者支援においてのデジタル性暴力特有の困難さを伝えて、法律を役立つものにしてほしいという切実な願いを届けました。その後も法制審の議論の進行に伴って、議事録を読んではそれに呼応する形で新たな要望書を提出し、オンラインイベントで発表する形で、提言を続けています。
B)被害の回復のためにも、法律を少しでも役立つものに変えていく必要がありますね…。相談員のAさんが刑法改正の動きにも参加している理由がわかってきました。
A)ぱっぷすの事業の主軸は相談支援、画像の削除要請、繁華街の夜回り(アウトリーチ)などです。これらはあくまでも現場に根差したものです。政策提言やロビイングに割く人的、資金的リソースは限られていますが、日々相談者の声を聴いてきた私達にはやはり、法制度や社会通念に疑問を投げかけ一石を投じる責務があります。
B)相談者の声を聞いてきた私たちの責務…たしかに…そうなのかもしれません。
A)目の前で苦しむ相談者の被害救済は、現行の法律が不十分であるために阻まれています。こうした認識のもと、これまで聴かれてこなかった被害者の声を届け、真に被害者が救われる法制度を整備していきたいです。だから、これからも政策提言やロビー活動にも精力的に取り組んでいきます。
(参考)
●刑法改正市民プロジェクトについて
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