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メルマガvol.128【書籍紹介】『証言・現代の性暴力とポルノ被害~研究と福祉の現場から~』(2010)


ぱっぷすの活動は2009年に始まり、これまでにぱっぷすの活動をベースにした単行本が3冊※出版されています。このところTwitterをはじめとするSNSでぱっぷすの本の紹介がされ、拡散されているようです。有難いことです。改めて、3冊の本について出版の裏事情などを含めてメルマガで順次ご紹介いたします。

『証言・現代の性暴力とポルノ被害 ~研究と福祉の現場から~』は女性や子どもの性的人権、ひいてはすべての人々の性的人権を守ることを願う同士達が集まって書いた本です。AV出演被害防止・救済法が制定される12年前の2010年に出版された本ですが、この本に書かれている内容は依然として古びていません。

性暴力やポルノ被害の問題に関心をよせる人に手に取っていただきたいのはもちろん、そうした被害の声に接する福祉職、心理職、弁護士、DVや性暴力被害者の支援活動に関わるひと、この問題の当事者にも読んでいただきたい内容です。


図書紹介その2

 ポルノ被害に関する研究は1999年に結成された”ポルノ・買春問題研究会”による研究成果が蓄積されていました。「性暴力としてのポルノグラフィとはいかなるものか」そして、そのポルノグラフィによって引き起こされる「ポルノ被害とはどのようなものか」という論考は、その後の相談支援活動によって実態ある被害として実証されてきました。ぱっぷすへのAV出演被害者からの相談は累計で600余名となり、この大きな流れを受けて、2022年6月にAV出演被害防止・救済法が制定・施行されました。

AVに代表されるポルノグラフィーが巨大な産業として急成長し、現代の日本社会の隅々まで蔓延している状況について、①ポルノ被害に関する研究 ②福祉施設などの現場が把握する被害の声の2本立ての構成にして総合的に論じています。被害者の視点を真正面に据えて編集しました。

性暴力やポルノ被害の問題に関心をよせるひとは、まずは第1章「ポルノとはなにか、ポルノ被害とは何か」から読み進めてください。

DVや性暴力の被害者支援に従事されているひとには、第2章「当事者の声と支援者の声と」から読むことを勧めます。福祉現場における問題の掘り起こしでした。福祉施設関係者、特に女性従事者たちは福祉施設の利用女性の中には性暴力被害者が存在していることを日常的に経験則的に知っていましたが、いざ具体的に知ろうとするとこの問題についての福祉施設縦断的なまとまった掘り起こしがほとんどなされていないという現実に直面しました。

女性に関する人権問題や児童福祉、障害福祉に関心のあるひとは、2章から読むことをお勧めします。ぱっぷすの創生期に係わった人たちの中には婦人保護施設関係者がいて、この人たちの情報網から辿っていきました。婦人保護施設はもとより児童養護施設などの福祉施設利用者の中には極めて悲惨な性暴力加害を受けて福祉施設に辿りついている方がいるということがなまなましく語られています。児童養護施設や赤ちゃんを預かる乳児院においてさえ性虐待をうけた子どもがいるという事実には言葉もありません。なお、知的障害のある女性は特に性被害に遭いやすい現実があることは広く知られた事実ではありますが、この問題に特化して掘り起こし切れていない課題が積み残されています。

当事者の声も採録し、ポルノ・性風俗で生きた女性と盗撮被害を受けた女性の手記が寄せられてます。圧巻の内容です。例えば性風俗の客の実態について、「“普段そんなことを彼女にしたら嫌われるよ”ということまでしてきます。それは若い人も年配の人も関係ありません。プレイが始まるとガラリと人が変わります」。職場の同僚から受けていた盗撮被害の発覚の経過、その後のPTSD、損害賠償などの詳細な記録は一見に値します。盗撮に関しては2022年10月24日の法制審議会において刑法の改正の一環として、盗撮を「撮影罪」として刑法に規定する試案が提示されました。当事者としての声を寄せてくださったお二人が現在は穏やかな生活をしておられることを祈るばかりです。

弁護士や法曹関係者の方は、ぜひ第3章「被害防止の可能性を探る~法、性教育、技術の各視点から~」を読み進めてください。

性暴力やポルノ被害などの現実になんらかの形で関わろうとすることは、自分自身も傷つくことから避けがたいものです。そういう分野だということを実感しておられるひとは、第4章「被害者支援の取り組みと展望~女性のための施設と医療の現場から」を読むことを勧めます。

 なお、“ポルノ”という用語を使うか否かを巡って、本のタイトルを考える時に喧々諤々の論議がありました。 “ポルノ”の用語の使用については「ポルノ被害と性暴力を考える会」を立ち上げる時にも大論争になりました。“ポルノ”にまとわりつくいかがわしさをどう考えるかということでもありました。

この本は2010年11月28日に立教大学池袋校舎のタッカーホールにて開催されたシンポジウム「ポルノ被害と子どもの貧困~おびやかされる子どもの性~」の会場にて事実上の発売を開始しました。出版から10年以上が経ちますが、この本が主題としたことは現在の性的搾取の問題を考えるうえで役立つものであることを確信しています。

目次

はじめに 性暴力被害者の語りとそれを聴き伝える意味について   宮本節子

第1章 ポルノとは何か、ポルノ被害とはなにか

 性暴力としてのポルノグラフィ 中里見博  ポルノ被害とはどのようなものか 森田成也  商品化される性暴力 山本有紀乃  盗撮と強撮の実態 森田成也

第2章 当事者の声と支援者の声と

 当事者は語る-ポルノ・性風俗の世界で生き、見えてきたもの、盗撮の被害を受けて

 支援者の声 -女性のための支援施設から

 支援者の声 -子どものための支援施設から

 支援者の声 -その他の施設から

第3章 被害防止の可能性を探る―――法、教育、技術の各視点から

 「わいせつ」アプローチから「人権」アプローチへ 中里見博  買売春をめぐる論議と包括的性教育の課題 浅井春夫

 現代社会の技術革新とポルノ 宮崎豊久

第4章 被害者支援の取り組みとその展望――女性のための施設と医療の現場から

 社会の「ポルノ化」と「貧困化」の同時進行 堀(笹田)琴美

 いつまでも続く女性への性暴力と現場での取り組み 横田千代子

 暴力ポルノと児童ポルノに抗する 白川美也子

※NPO法人ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)の活動に関連する本は以下の3冊をはじめ、HPでも紹介しています。ポルノ被害や性的搾取の問題を考えるうえで重要な書籍リストになっていますので、良かったらご覧ください。https://www.paps.jp/goods


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