2022年12月、AV出演被害防止・救済法による初めての逮捕者が出ました。遡ること10年前の、2012年からAV出演被害者の相談支援に取り組んできた私たちにとって、これは重要な出来事です。複数の大手マスメディアにも報じられました。(文末に参考リストあり)
ぱっぷすに相談を寄せられるひとには「この法律はあなたを守るための法律です」と伝えています。この法律ができるまではAV出演者の被害防止・救済に関する有効な法が整備されていませんでした。今回の逮捕について、2022年12月6日の報道によると、概要は以下のとおりです。
●11月12日、映像制作会社役員がわいせつ電磁的記録媒体陳列罪で警視庁保安課により逮捕、起訴。
●12月6日までに、AV出演被害防止・救済法違反容疑で警視庁保安課により再逮捕。
●容疑者は容疑を認めており「簡単に利益が出て手軽だった」と供述。
●AV出演被害防止救済法の違反容疑での摘発は全国で初めて
●出演した女性は無修正での販売だと聞かされていなかった
●さらに、出演した女性に契約書類を交付していない”無契約”での出演だった
●2021年8~10月の間に7回にわたり契約書を交付しなかった疑い
●契約書を渡さなかった場合、6カ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される
●警視庁は同じような被害が出ないよう摘発を続ける方針
無修正AVとは、出演者の性器にモザイクをかける修正が行われていないAVのことです。無修正AVを頒布(はんぷ=広く行き渡らせる)ことは、刑法 175条「わいせつ物の頒布の罪」に抵触する違法行為です。出演者が刑法 62条「ほう助犯」で逮捕される可能性があることも制作者は知っていたはずです。しかし、出演者はそうしたリスクについて説明されず、違法行為に巻き込まれてしまったのでしょう。
契約書類を交付していない無契約での出演ということは、自分が出演したAVがどこで公開するのか、どのように販売されるのか、時期や期間などを出演した本人が確認することができません。それらの重要事項も伏せて撮影・販売し、巨額の利益を得ている悪質性が高い事件です。
容疑者の逮捕は、AV出演被害防止・救済法 6条によるものと思われます。有罪が決まれば、6か月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(21条2項)に処せられます。
「制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結したときは、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければならない。」(AV出演被害防止・救済法6条(出演契約書等の交付義務))
AVの販売は以前はDVDでしたが、現在はストリーミング・ダウンロード販売が主流となっています。2015年ごろからインターネット高速接続が容易になったことで、アダルト動画販売プラットフォーム等を活用して、個人がAVを作成して販売するほうが荒稼ぎできてしまう状況が続いていました。
「個人撮影 / 個撮 / 個撮案件」や「同人AV / 同人AVモデル」などのキーワードで検索すると愕然とさせられます。現状ではFC2コンテンツマーケットなどが温床となっているようです。
上記のキーワードについて、Twitterでハッシュタグをつけて検索をすると違法なスカウトが行われていることもわかります。アダルトビデオ出演は公衆道徳上の有害業務として扱われているので、職業紹介・あっせん・派遣はできないはずです。しかし、SNSなどを使ったAV出演への斡旋について取り締まりなどは行われていません。ナンパと称したAVのスカウトについても、大阪の繁華街では積極的に取り締まりを強化しているようですが、東京の繁華街では野放しの状況が続いていることを確認しています。警察は取り締まりを強化すべきではないでしょうか。
AV出演被害防止・救済法では、動画販売をするプラットフォームの本拠地が国内か海外かどうかに関係なく「差し止め請求権」を行使することができます。 無修正で販売された場合は、刑法 175条「わいせつ物頒布の罪」に違反することになります。民法 90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」により契約自体が無効となりますが、契約が無効になったあとも販売が続く悪質なケースもあります。
こうした場合にAV出演被害防止・救済法 15条「差し止め請求権」によって、販売を完全に停止させられるようになりました。この法律は被害救済のための法律です。
2022年6月にAV出演被害防止救済法が施行されてから、ぱっぷすには毎月10数件のAV出演被害に係わる相談が寄せられています。 現時点では、法律が施行する前に出演・販売されたAVについての相談が多く寄せられており、無契約の出演被害の相談もあります。
無契約のAV出演について悩んでいる方に知ってほしいのは、この法律が施行する前に出演したものであっても「差し止め請求」ができる場合があります。相談員が詳しく話を伺って、然るべき手続きをして販売停止を実現できた例もあります。内閣府にさまざまな資料があるのでご自身で直接交渉してもいいですし、ぱっぷす経由で交渉することもできますのでご相談ください。(「キャンセル代がかかるよ」などと言って任意解除を妨げられた場合には、AV出演被害防止・救済法 20条「任意解除の妨げ」になります。ご相談ください。)
AV出演被害防止・救済法ができてから初の逮捕者がでたので、この法律が今後の抑止力になることを願っています。そして、さらなる被害の防止と被害救済のためには、この法律を改正しなければならない部分はまだまだあることも認識していますので、今後も注視してまいります。相談される方には「この法律はあなたを守るための法律です」と伝え続けます。
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2022年は前年の倍のペースで新規相談が増えています。
寄せられる相談に対応するため、支援体制の強化を急いでいます。
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(参考) NHK「「AV新法」適用 全国で初の検挙 出演者に契約書不交付か」(2022/12/06)
読売新聞「無修正」と伝えず違法AV撮影か、出演女性「知っていれば出なかった」(2022/12/06)
産経新聞「AV新法違反疑い初立件、映像制作会社役員を再逮捕」(2022/12/6)
日経新聞「AV新法違反疑い初立件 会社役員、契約書不交付か」(2022/12/6) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF060JQ0W2A201C2000000/
朝日新聞「「AV新法」初適用 出演女性3人に契約書渡さなかった疑いで逮捕」(2022/12/6)
東京新聞「AV新法違反疑い初立件、警視庁 映像制作会社役員を再逮捕」(2022/12/6)
TBS NEWS DIG「「今でもトラウマ、一生消えない傷に…」出演強要被害の女性語る AV新法で初摘発 容疑者は「無修正と説明しておらず」」(2022/12/6) https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/223215?display=1
朝日新聞「AV被害防止法初摘発 経営者、契約書不交付疑い」(2022/12/7)
時事ドットコム「AV出演被害防止法で初摘発 契約書不交付疑い、男を再逮捕―警視庁」(2022/12/06)
↓ぱっぷすが取材に応えている記事 時事ドットコム有識者「業務に自覚を」 AV出演被害防止法で初摘発(2022/12/06) https://www.jiji.com/jc/article?k=2022120600993&g=soc
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