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PAPSメルマガ vol.70 AV出演強要被害をなくすための法制化を求めて


2019年5月8日に、参議院会館にてヒューマンライツ・ナウ、人身取引被害者サポートセンターライトハウス、ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)の3団体共同でAV被害問題に関する法律の制定を求める院内集会を開催し、ぱっぷすは、相談の現況と課題を報告しました。以下が、その報告内容です。

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 ぱっぷすはアダルトビデオ(以下AV)の撮影に関連して性的な被害を受けた方々のための相談窓口を開設してから6年経ちます。

 ぱっぷすに寄せられている相談から見える概況と課題をお伝えします。

 現在、18歳から20歳前後の⼥性からAV出演に関する被害相談が急増しています。これらの相談から、若年⼥性の⼼理を巧みに利⽤し、無知や恐怖に乗じてAVに出演させ、事業者は莫大な利益を得ている実態が可視化されてきました。

<なぜ彼女たちは撮影を断れないか>

 相談者の多くは、これまで本当の意味での「悪意を持った人」に出会ったことがないのではないかと感じます。ほとんどのAVは、男性向けに販売されるビデオであるため、被害女性はどのように拡散するのか、事前に予測することはできません。18~20代の若年女性はちょっとでも親身になってもらっているように感じるといい人に出会ったと事実誤認をします。「なんか変なことをさせられるんじゃないか」と漠然とした不安を持っても、「あの人はいい人だ」と不安が解消されてしまいます。相手はそれが手法なので被害に遭ってしまいます。

 例えば、人は、誰かに食事を提供されたときや、褒められたときは、断りづらくなります。それと同じで、若年女性は、SNSやスカウトなどと喫茶店でお茶しながら個人的な話を聞いて相談に乗ってもらったときに、相手に恩義や申し訳なさを感じ、断れない気持ちになってしまいます。

 「AVはちょっと・・・」と、AVに出たくないことを事業者に伝えても「それって、俺たちのことを差別しているの」とか「俺たちやこの業界を否定しているの」と言われ、人を差別してはいけないという気持ちを逆手にとられ、断れなくなるパターンもあります。

 多くの相談者に共通することとして、自分の持てる能力のすべてを使ってAV撮影に対し必死に抵抗しますが、ある時点を境にして、スーッと無意識下で抵抗をあきらめ、反射的に言われるままに従うようになります。ある相談者さんは、その時に悔しさと言語化できない複雑な感情が込み上げて、涙がどっと溢れ出たそうですが、監督やメーカーの人たちは、それを「感極まって泣いた」「新人ではよくあるよね」と言うだけだったとのことでした。それ以降は、相談者さんはあらゆる感覚が遮断されてしまい、宙に浮いた感じになったそうです。

 新人デビューの場合は1本契約ということはまずありません。ある被害者の場合は6本契約でした。撮影は毎月1回行われ、3か月~半年かけて行われます。撮影されたものは撮られて溜めておかれるために、この期間身バレすることはほとんどありません。そのあいだに、プロダクションとメーカーの人たちと長時間一緒に過ごすことになり、一緒にAVという作品を作る仲間という妙な信頼関係や連帯意識が生まれます。

 唯一自分でコントロールできるのは“演技”しかなく、否定的に“演技”するよりも、協力的に、従順になって自ら性的な“演技”をします。この場合の“演技”というのはいわゆる本番と言われる性交行為そのものです。

 また、ハードなプレイをこなせば、AV監督やプロダクションのマネージャーはそれを報いるように、まるで“お姫様“のように誠意を尽くして対応してくれます。体調が悪くて休みたいときも、多少の融通をきかせてくれます。AVメーカーやAVプロダクションの人たちから見れば「AV撮影を積極的にこなしている」「好きでやっている」と捉えられます。

 2~3本の撮影に応じたあとに、事務所の担当者から「ほら、身バレしてないでしょ」と言われますが、しかし契約本数の6本の撮影が終わるころに、ようやく販売が開始されます。明らかに意図的な発売日の操作があります。一定の撮影が終わってからの発売以後は、相談者にとっての地獄の始まりです。

 このように撮影された映像は、自ら望んで出演した、ごく普通のAVとして大々的に販売されてしまいます。こうなってしまうと、外形的には“自ら同意して”撮影に応じているように見えますが、決してそうではありません。

 たとえ刑事事件化をしても、捕まるのはせいぜいAVプロダクションまでであり、AVメーカーまで責任追及ができず、販売の停止に応じないなどの場合もあります。

 ある相談者は、失恋して自暴自棄になっていたとき、性的なことやその撮影に応じてしまいました。もちろん、AV出演強要のことはニュースで知っていたのですが、まさか自分が巻き込まれてしまうとは思ってなかった、と述べていました。人は、失恋や退職など、大きな悲劇に直面し、自分自身でコントロールが及ばないと感じるような状況に陥ると、過度なストレスで、自分を追い込んで衝動的なことをしてしまいがちです。

 そもそも、販売されるのは、男性向けに作られたAVなので、被害者の女性にとって撮影されたビデオがどのように流通拡散するのかには関心がありません。

 そのなかで、商業的なメディアが演出するこれらの産業の “きらびやかさ” に動機付けられ、出演してしまいます。外形的には自ら望んで出演したかのように見えますが、多くはご本人と業者との交渉力の格差、情報の質と量の格差に乗じられて最終的には出演を余儀なくされてしまいます。撮影されたビデオの販売や流通等は自分でコントロールすることはできず、想定外の事態が展開します。

<AV流通には制度的な課題がある>

 業界では業者の自主参加による団体を結成し、“被害者対策”に乗り出しています。販売されて5年経つと本人が希望すれば販売停止すると主張していますが、たとえ販売停止しても、ネット上には拡散されつづけます。ネットで拡散し尽くされている動画や画像の削除にも協力してほしいと伝えましたが、業界団体は協力しないとも述べています。

 ある相談者は、弁護士を立ててAVメーカーに販売停止を求めましたが、そのメーカーは販売の停止をしないと決めました。しかし、それを良いことに、販売しないでほしいと伝えたビデオをあえて使ってオムニバス(既に販売されている複数のビデオを一つにまとめて安売りすること)を売り出しました。業界団体のルールでは本人から削除要請があった場合、5年経たないと削除しないことになっていますが、オムニバスでは更に4年待たないといけないことになります。

 被害は生活の様々な面で広がっています。ネット上に拡散し、誹謗中傷され、友達・会社の同僚・取引先の人たちも見ている。既に、学校にいけない、就活できない。成人式にも行けない。怯えての生活のため生活の維持もままならない。相談者にとっては一種の「リベンジポルノ」です。業界団体に販売停止を求めたら良いのかと言えば、そうではありません。とても有名なAV女優と共演しているから消せないという理由もありました。メーカーの思い付きや裁量で製作方法や販売方法が決められているところにも問題があります。

 現在の技術では、誰でも撮影できることも大きな課題です。

 みなさんがお持ちの、スマートフォンでは、フルハイビジョンの撮影ができます。そのため、個人がスマホで撮影し荒稼ぎできるため、自主規制制度や業界団体は機能していません。拡散は、グローバルに行われています。撮影や拡散で苦しんでいる方たちは多数いますし、お亡くなりになったケースも数件確認しています。

 一方で、事業者は、毎年その年齢に達する18歳~20歳前後の若年女性を、広く薄く刈りとり、2年~5年程度にかけて搾り取っていきます。

 そのうえ、事業者は、年を追うごとに、手口が巧妙化・先鋭化して、法の抜け穴の利用の仕方がどんどん巧妙になってきています。今日ではTwitterなどのSNSを使って、口を開けて待っていれば、安易に若年女性を勧誘できる仕組みにまで発展しています。

 昨年末もわいせつ動画の制作販売で、4000万ほど荒稼ぎをした事案の容疑者が逮捕されました。たまたま、法律の抜け穴を知らなかったから逮捕できたと思いますが、今後は知恵をつけ、逮捕や起訴されないようにアメリカのネバダ州を逃げ道に荒稼ぎすることと思います。

<この問題を、社会的なマクロな視点で考える>

 AV出演に伴う身バレによって被る当事者の社会的な不利益と社会全体が被る損害についても考える必要があります。

 ある事業者は、AV撮影が高収入バイトである理由として、バレたときの慰謝料というわけではないが、前もってお金を支払っておくんだと述べていました。では、相談者はいくらもらえたのかと言うと、十数万円、多くても1回あたり30万円です。 

 このように、失業の危機や就労範囲が狭まることでの、生涯にわたる生涯賃金(しょうがいちんぎん)の低下による日本の経済的損失の問題もあります。AV出演で自殺した人の総数の実態は分かりませんが、おそらく相当数に上ると考えられます。この人たちの存在の損失は計り知れません。

 他にも、本番行為と称した性交為によって生じる、妊娠中絶・感染症(B型肝炎ウイルス、HIV)の治療費、身体的精神的な虐待によって生じたPTSDなどの治療費もあります。被害者はこれらを、将来にわたり支払わなければなりません。そして、私たちの社会も莫大なコストを負担することにもなります。大きな問題のはずですが可視化されていません。

<被害回復のための⽀援とは>

 ぱっぷすは、現在進行形の相談が100件以上あり、パンク状態です。

 ネット上に拡散している動画や画像などを削除してほしいとの訴えが圧倒的に多い現状です。

 例えば児童ポルノは「違法情報」、リベンジポルノは「有害情報」として削除することができますが、AV出演被害については、これらの法律に該当しないため、削除要請が困難です。削除したくても、被害者自らネットで探す必要があるため、忘れたい被害動画を再三再四見なくてはならないため2次的被害も甚大です。削除要請はインターネットプロバイダも絡んだ話になります。AVやリベンジポルノを含む、デジタル性暴力の被害相談は、スマホ社会により、今後も増加が予測されるため、被害相談モデル事業の推進などの施策が急務です。

<監督官庁がほしい>

 JKビジネスやAV出演強要問題が可視化されてから、少し社会は変わりつつありますが、現行法の運用では、いわゆるAVメーカーは刑事的な責任追及されない仕組みのため、免罪符をもらったかのようにふるまっています。たとえ逮捕されても、業者名のペンキを塗りなおして同じことを繰り返している事業者も複数確認しています。AVメーカー及びプロダクションは、いわゆる性風俗関連特殊営業として届け出されておらず、国内にどれくらいの事業者あるのかも把握できていません。やりたい放題になっています。

<法的規制に求めること>

 被害救済のための法的規制は、表現の自由の問題ではありません。

 立法とは、未来を担う子どもたちへの投資でもあります。国民運動の醸成を図る必要もあります。入り口として加害者を訴追しやすい立法、出口として販売停止など被害救済しやすい立法を求めます。法制化の際には犯罪収益の剥奪も考慮に入れていただきたいと思います。これらの産業は、莫大な収益を上げています。この事実は裁判などを通じて知ることができました。

<予防啓発が必要>

 子どもたちが加害者にならないよう、被害者にもならないようにするための予防教育が急務です。加害者が減れば、被害も減ります。メディアリテラシー教育や、搾取ビジネスに関与しない教育などを中高生から始める必要があります。JKビジネスAV防止月間を活用し、気軽に相談しやすい制度作りも必要です。

 終わりに、議員のみなさん、行政のみなさんにお願いがあります。

 このようなAV製作や流通の構造は、性的搾取であり、人身取引であると考えます。

 私たち日本の社会が望む未来とはどのような社会なのか。

 このように若い女性の性が売買される未来はどういう社会なのか。もう答えを出す時期にきています。

 国会議員の皆様には、有効な被害救済制度の⽴法化をお願いいたします。

 ご清聴ありがとうございました。


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