【手記】200人のAV出演被害者、そのひとりがわたしです - 前編 -
2017年5月、詐欺サイトで「コスプレモデル募集」を呼びかけ、女性200人以上をアダルトビデオに出演させていた男が大阪府警に逮捕されました。犯人は一連の犯行で1億4000万円の不正な利益を手にしました。一方、判決は懲役2年6か月、罰金30万円、5年の執行猶予。(検察側が上告中)
NPO法人ぱっぷすはリベンジポルノ・性的な盗撮・グラビアやヌード撮影によるデジタル性暴力、アダルトビデオ業界や性産業にかかわって困っている方の相談窓口です。この事件で被害にあった女性たちからも相談が寄せられました。彼女たちの希望と了承のもと、被害体験を語ってもらいました。ただし、相談者が特定されないように、複数構成にしてあります。
※2022年6月23日にAV出演被害防止・救済法が施行されました
※AV出演被害については国のHPにも詳しいことが掲載されています
>>内閣府「AV出演を契約しても無条件でその出演契約をなかったことにできます!」
※ぱっぷすのHPやSNSアカウントでも新しい情報を発信しているので参考にしてください
はじめまして。 わたしは、たくさんあるAV強要の事件のなかで、とりわけ有名な事件の被害者です。被害者はたくさんいますが、ほとんどの子は訴え出ていません。
A被告(ここから先、わたしはA被告を『あの人』と呼びます)は、AVの撮影を強要したあと、被害者の女の子たちに「実技は自分の意志でしました」と暗唱させ、映像に残しました。実技とは性行為のことです。
このとき、身分証明書を、顔のよこに添えさせます。 捜査の決め手となったのは、暗唱しながら泣いている女の子の映像だったそうです。ぱっぷすさんにつながって知ったのですが、AV強要は、複数の人間がチームワークで行うのが一般的だそうです。
グラビアの撮影と騙され郊外のスタジオへ。 そこには数名の男たちが待ち構えていてAVへの出演を迫ります。撮影スタッフも、グルです。女性のメイクさんさえグルです。優しく慰め、我慢すれば終わるからねと説き伏せたりするそうです。
この事件の犯人は「単独犯」でした。
事件に至るまでの経緯と被害に遭ったときのこと。そして被害後どうなって、ぱっぷすさんにつながって、それからどうなったか。 個人的な話が多くなりますが、なにかの参考になるのを願います。
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わたしの家は共働きで、どこにでもある普通の家でした。経済的にもごく普通。
中学受験をして、ミッション系の私立中学に進学しました。
わたしは自分をわりといい家の子だと思ってましたけど、そうじゃないんですよね。
まわりはけっこう派手な暮らしをしているお家でした。お父さんが開業医だとか。
いちばん仲良かった子は、ご実家が××(個人の特定を避けるために、本人の了解を得て省略しました)を営んでいて、その子はバレエや歌のレッスンに夢中でした。
みんなと一緒の進学校を目指していたけど、宝塚を記念受験するんだって言ってた。わたしも彼女みたいにバレエを習いたかったけど、お母さんに頼むとさりげなく話をそらされました。
親の負担に気づきだしたのはこの頃です。
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高校ぐらいのときに、とあるアイドルグループに熱中しました。男の子のアイドルグループじゃなくて、女の子のアイドルグループ。見てると、いろんな嫌なこと忘れられた。友達が少なくなっていたのは、関係あります。
進学しても、地方ってあんまり顔ぶれが変わらない。中学の人間関係は、そのまま高校に繰り越されます。高校1年の冬に、久々にみんなで映画見に行こうって話になったんです。去年の冬は受験でそれどころじゃなかったし。
そのとき気づいたんです。
高校になって、みんな、中学のころより服装に気合が入るようになってた。でもわたしのコートは安物だから型崩れしてる。
楽しめずに帰宅しました。でもお母さんに「コート買って!」って言えなかった。そんなこと言ったら、お母さん、可哀相。
それから、日曜はどこにもいかないで、ずっとそのアイドルグループの××ちゃんのことを考えて過ごすのが増えた。空想するのが好きになった。推しの××ちゃんは、子供のころからバレエや歌やダンスのレッスンやってきて、身体がすごく綺麗で、「可愛い」じゃなくて「恰好いい」アイドルだった。
××ちゃんは、適当な時期になったらアイドル卒業するって宣言してた。みんなが憧れるアイドルの座を、あっさり捨てるなんて、本当に選ばれた人なんだなあって。憧れた。
YouTubeで映像を探して、××ちゃんのことを見たり。お小遣いでもなんとか買えるグッズを集めたり。そんなふうに過ごしてた。
高校2年のときでした。
ネットで検索していたら「コスプレモデル募集 アイドル一日体験」と書いてあるサイトを見つけました。どういうキーワードで見つけたのか、正確なところを忘れてます。××ちゃんの情報や同人誌を探しているうちに引っ掛かったんだと思う。
そのサイトには、コスプレ着用で撮影された女の子たちがサイトに載ってた。「夏休みのいい思い出になりました」って、その子たちのコメントつきで。
ぱっと目を引いたのは、その子が着ていたコスチューム。去年ぐらいの曲で、××ちゃんたちが着ていたコスチュームになんとなく似てる。心臓がきゅってなった。だって、思ってもみなかった。××ちゃんにそっくりのコスチュームを着て撮影してもらうなんて。
自分がアイドルになれないなんて、解ってる。だって××ちゃんのデビューは14歳、わたしはもう17歳。しかも歌もダンスもレッスンしてない。
でも一日ぐらい、体験してみてもいいんじゃないかな。
子供のころ、キッザニアに行きませんでした? 職業一日体験、働く真似事をして、疑似通貨をもらって。楽しかったですよね。あれのもうちょっと具体的な感じをイメージしました。
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